大学紹介令和6年度学位記授与式式辞
式辞学部卒業生,養護教諭特別別科修了生,大学院修了生の皆さん,

また,御多用のところ卒業生?修了生のために御臨席賜りました,後援会,同窓会をはじめとする御来賓の皆様方に厚く御礼申し上げますとともに,御家族の皆様には心よりお慶び申し上げます。?
皆さんの学生生活を振り返ると,令和3年度の入学式はコロナ禍で中止となり,大学生になった実感が持てないままの学生生活の始まりだったのではないでしょうか。様々な制限がある中,2年次までは遠隔授業と対面授業の併用で乗り切りました。3年次の5月,新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行したことで通常の学生生活に戻り,本日の晴れの門出となりました。皆さんの学生生活は,変化が激しく先行き不透明な時代に適応する力を身に付けた貴重な経験であったと捉えることもできます。困難を乗り越えた経験は,きっと皆さんの人生の強みになるはずです。?
さて,教育が果たす役割は,皆さんが巣立つ変化の激しい社会では益々高まると思います。その変化は,皆さんも肌で感じている外国人観光客の増加だけではありません。北海道の外国人人口は,2014年の約22,000人から2024年には約55,000人へと2.5倍も増加しているのです1)。言い換えれば「内なる国際化」が進みつつあります。こうした変化も踏まえると,グローバル社会における「日本の教育の価値」を改めて問い直すことが必要です。?
最近,日本の教育に焦点を当てた映画が世界で上映され,大きな話題になっています。「小学校 それは小さな社会」というドキュメンタリー映画です。東京都世田谷区の公立小学校に対する4000時間の取材を経て制作されたこの映画は,「特別活動」を中心に1年生と6年生の1年間の学校生活を追っています。監督の山崎エマさんは,父親がイギリス人,母親が日本人で,日本の公立小学校を卒業後,中?高はインターナショナルスクール,大学はニューヨーク大学に進学しました。卒業後,現地で普通に仕事をしていても「責任感が強いですね」「すごく頑張りますね」と褒められることが多かった山崎監督は,その来歴から,この自分の強みは日本の小学校で培われたことに気づき,日本の小学校を世界に伝えたいと考えました2)。?
私もこの映画を観てきましたが,印象的なシーンがいくつもありました。下駄箱に靴が綺麗に揃って入っているかどうか,当番の児童が点検し揃えていくところ。小さな一年生が掃除や給食当番を一生懸命務める姿。私たちには当たり前の学校生活の一部ですが,海外では,単に教科の学力を高めるだけではない「全人的教育」としての日本型学校教育は,驚きをもって受けとめられているのです3)。?
別の場面では,新入生歓迎の器楽合奏のオーディションでシンバルの担当を勝ち取り,大喜びする1年生の女子児童が登場します4)。この子は,練習を怠って合奏練習で上手く演奏できず,指導の教師から,「あなた一人しかいないんです」「その責任があなたにはあります」「オーディションに受かったらそれでおしまいなの?」「泣いたら上手になるの?」と厳しく指導されます。一方で,「大丈夫,出来るよ」と励ます別の担任教師がバランスをとり,まわりの子も思い遣りの言葉をかけ,またその指導の教師からも励まされ,結果的には,努力が実り歓迎会当日は無事演奏は成功します。子どもが「壁」を乗り越え成長する姿に心が動かされました。?
この映画はSNS等で賛否両論が沸き起こっていますが,コミュニティーにおける規律と秩序,協調性,責任感といった日本人の強みは,教師の献身的努力に支えられていることに改めて気付かされました。西洋的な個人の重視か,日本的な集団や協調性の重視か。協調性は行き過ぎると同調圧力や多様性の排除にも繋がります。一方,教育大国フィンランドでこの映画が大ヒットした背景には,個人の重視が行き過ぎた,との反省があるようです3,5)。映画の中で「自由と制限の平均台の上を歩いているよう」という教師の言葉に象徴されるように,難しいバランスを取りながら懸命に子どもの成長を支えているのが多くの日本の教師の姿だと感じました。?
山崎監督は,この映画を作った目的の一つとして,教師の「職業としてのやりがい,生きがい,素敵なところを社会に見せたかったんです」と述べています6)。「いま小学校を知ることは,未来の日本を考えること」というこの映画のキャッチフレーズにもあるように,教育は,明日の日本を作っていく大切な営みです。それは,学校教育だけに限りません。皆さんは,教員養成課程,学科を問わず,人と社会の成長を支える教育マインドを本学で身に付けてきました。皆さんの進路は様々ですが,それぞれの立場から「教育の価値」について考え続けて欲しいと思います。?
ところで,教育の普遍的な目的とはそもそも何なのでしょうか。いま,その目的として「Well-Beingの向上」という考え方が注目されています7)。Well-Beingとは,「個人の幸福」に留まらず「個人を取り巻く社会」が良い状態にあることを含む概念です。例えば,地域の人々が互いに支え合い安心して暮らせる社会,誰もが自分の能力を発揮し充実した人生を送れる社会こそが,Well-Beingが実現した社会と言えます。先ほど紹介した映画に描かれた協調性や責任感を育む教育は,Well-Beingを支える基盤の一つです。世界では,大国による「自国第一主義」が台頭してきていますが,「調和と協調」に基づく日本発のWell-Beingは,世界の平和と安定に貢献するはずです。?
Well-Beingの構成要素8)には様々な観点が考えられますが,初等中等教育の充実はもちろんのこと,地域の人間関係の観点では,協調的な「地域と人との繋がり」「多様性と寛容性」は重要な要素です。また,自分らしい生き方の観点では「芸術」「健康」もWell-Beingにとって極めて大切だと感じます。?
教員養成課程の札幌校?旭川校?釧路校,そして教職大学院や大学院学校臨床心理専攻では,児童?生徒のWell-Being向上に資する教育研究に取り組んできました。国際地域学科の函館校は,地域学に関する探究や「地域プロジェクト」「サマースクール」などの活動を通して道南地域のWell-Beingに貢献しています。「芸術?スポーツ文化学科」の岩見沢校は,演奏会や展覧会での成果発表や「あそびプロジェクト」「芸術?スポーツキャラバン」等の活動を通して北海道のWell-Beingに貢献してきました。卒業生?修了生のみなさん。本学で学んだことを活かし,各々の立場からWell-Beingの向上にこれからも貢献して下さい。?
最後になりますが,後援会及び同窓会の会員の皆様,経営協議会委員の皆様,御家族の皆様,そして地域住民の皆様には,日頃から本学の教育?研究にご理解を賜り,澳门金沙城中心_欧洲杯买球官网-投注|平台基金をはじめ様々な形での御支援をいただいていることに,この場を借りて心より感謝申し上げます。卒業?修了される皆さんも,御支援に対する感謝の気持ちを忘れず,これからの人生を送って下さい。皆さんの輝かしい未来を心から祈念して,私の式辞といたします。?

令和7年3月15日?
澳门金沙城中心_欧洲杯买球官网-投注|平台長 田口 哲?
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1) 北海道人口ビジョン(改訂版)のオープンデータ
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ss/csr/jinkou/senryaku/jinkouvisionopendata.html
2) 第31回キネコ国際映画祭 キネコグランプリ?ドキュメンタリー部門 受賞!オフィシャルレポート
https://shogakko-film.com/news/1106_01
3) なぜ「教育大国」フィンランドが、日本の公立小学校に注目するか? ―日本とフィンランドそれぞれのリアルを専門家が語り合う― https://shogakko-film.com/news/1201
4) このシーンは,この映画撮影から生まれた『Instruments of a Beating Heart』短編作品中にもあり,YouTubeで視聴可能。 https://www.youtube.com/watch?v=DRW0auOiqm4?
なお,この短編作品は,2025年第97回米アカデミー賞の短編ドキュメンタリー部門にノミネートされた。?
5) 協調性を重んじる日本の教育は,本当に「問題だらけ」? 映画『小学校~それは小さな社会~』監督インタビュー
https://www.cinra.net/article/2412-emaryanyamazaki_iktay/
6) 日本式教育に“光”を当てる―題材は「日本の公立小学校」 アカデミー賞ノミネートを果たした山崎エマ監督が語る撮影秘話 https://eiga.com/extra/hosoki/45/
7) 第4期 教育振興基本計画 令和5年6月16日閣議決定
https://www.mext.go.jp/content/20230615-mxt_soseisk02-100000597_01.pdf
8) 地域幸福度Well-Being指標 デジタル庁 https://well-being.digital.go.jp/about/
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