NEWS(研究活動)音楽文化専攻作曲コース教員が、国際フォーラムで新技術と音響作品の発表を行いました
2024年5月15日
岩見沢校音楽文化専攻の北爪裕道講師が、世界的な音響?音楽研究機関であるIRCAM(イルカム、フランス国立音響音楽研究所)が主催するIRCAMフォーラムにおいて研究発表を行いました。IRCAMは、音に関する科学研究や、テクノロジーを音楽に利用するためのあらゆる技術研究?開発を行っている国立の研究機関であり、世界の音と音楽に関するテクノロジー研究や技術開発をリードし、音楽制作?技術研究の発展と普及を目的とした活動を行っています。
その一環として、世界各国から集まった音に関する最新の研究?技術の発表、それを利用したサウンドアートやパフォーマンスなどが披露される「IRCAMフォーラム」が毎年開催されており、関連分野の世界的な情報共有の場となっています。
2024年3月19日(火)~22日(金)にかけてフランス?パリで開催された今回のIRCAMフォーラムは、「30周年記念特別エディション」と銘打たれ、その発表題目の選考には世界中から史上最多数のエントリーが寄せられ厳しい選考が行われました。その中で、北爪講師が開発した立体音響システムとその技術を駆使したインスタレーション作品が選出され、3月21日(木)にその発表が行われました。
音響作品の発表を行う北爪講師
研究の概要は以下のとおりです。
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【研究成果のポイント】
- 新型聴覚ARヘッドセット(耳介開放型ヘッドホン)及び多数のスピーカーを併用する新たな立体音響表現システムを開発しました。
- 今回開発した立体音響表現システムでは、前後?左右?上下方向からの音をコントロールする3D音像に加えて、既存のサウンドシステムでは表現できなかった「音がスピーカーの位置よりもさらに鑑賞者に近づいてくるように聞こえさせる」などといった近接領域での遠近感の表現(「迫真型近接音響表現」)が可能となりました。
- この立体音響表現システムを使用することで、音響表現の可能性が広がり、新たな音楽作品の創出や、より臨場感のあるアート体験の実現につながることが期待できます。
- また、このシステムはすでに医療分野等でも様々な利用法が検証されており、音像移動の錯覚を利用した定位認知?平衡感覚失調者のトレーニング、たとえば義足をつけた直後の慣れるまでのリハビリテーションや、パーキンソン病患者への前庭リハビリテーションなどへの効果も認められています。
【プロジェクトの経緯】
本プロジェクトは、東京大学大学院?伊東乾教授の研究室で今年博士号を取得した李珍咏(イ?ジンヨン)さんが、修士研究として新型聴覚ARヘッドセットを開発、さらに博士研究としてその様々な利用法等を研究していたところに、北爪講師が協力を要請され参加したことから立ち上がったものです。かねてより近接音響表現の実現を様々な形で模索していた北爪講師は、この新型ヘッドセットによるバイノーラル音響(ヘッドホンのための3D音響)とマルチスピーカーシステムを融合させる今回のシステムを考案し、機材構築やプログラミングなどを行って実現しました。さらに広島国際大学?石原茂和教授の研究室の協力のもと、このシステムの医療分野等における利用法の検証も行われました。今回のIRCAMフォーラムでの発表に際しては、北爪講師も伊東教授も、研究者であるだけでなく作曲家?アーティストであることから、単なる技術展示にとどまらない芸術的価値を示す作品を発表しようという意識を共有し、このシステムならではの共作による音響作品、そして北爪講師のオリジナル作品が並行して制作されました。音素材には、東京藝術大学音楽学部在学中のクラリネット奏者、石田理雄さんのバスクラリネットの演奏音の録音なども使用されています。
IRCAMフォーラムで提供された発表会場は、壁中?天井中に計28台のスピーカーが設置されたアンビソニックス(3D音響)再生環境で、その部屋の中央に日本から持参したヘッドセットが置かれました。鑑賞者の多くは、まずはスピーカーのみによる音響を鑑賞することになりますが、部屋の中央に置かれたヘッドセットを手に取り装着すると、そこで初めて聴取できる音素材や音像に出会い、別の意味をもって作品を鑑賞できるようになっています。
2024年度も、このシステムのさらなる発展的研究や新モデルの開発、音響作品の制作等がすでに進められています。
参考:研究発表内容についての記事
https://forum.ircam.fr/article/detail/hoa-proximity-acoustic-expression-through-integrated-wearable-auditory-ar-and-multichannel-loudspeaker-systems/
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